久しぶりに音楽の話でもしようと思う。
自分はバンドが好きだ。学生時代は部活や趣味がほぼ音楽だった。
好きなジャンルの話をしてもいいのだが、ある程度音楽を深掘りしていくと、マニアックな領域に突入してしまう。
自分はオルタナ/ポストハードコア(エモ)/ポストロック/マスロックなどが好きなのだが、例えば、ジャズやメタルが好きな人の話は殆ど分からない。(残響レコード世代という奴である)
ここで自分の趣味を語っても、記事としては自己満足に近いものになってしまうだろう。
このブログやツイッターを読んでくれている人達は、社会不適合者的な要素から繋がったはずだ。
そんな人々に刺さるようなバンドを紹介したい。
–
自分は歌詞について「わりと、どうでもいい」派だ。
響きが綺麗だったり、世界観を統一するような言葉選びをしておけばいいんじゃないか、ぐらいに思っている。
だが、当時、10代後半だった自分に文学性を含めて大きな影響を与えたバンドがある。
それが「ハヌマーン」だ。
ハヌマーンは大阪出身の3ピースバンドである。
焦躁的ギターサウンドとハイレベルな演奏技術、そして、厭世的な歌詞の世界観を展開する。
当時は「ナンバーガールのフォロワー」と呼ばれるバンドが数多く存在していたが、向井秀徳のエッセンスを最も継承していたのは間違いなくハヌマーンだ。
「冷凍都市の暮らし」をより鮮明に、リアルに、自意識過剰を伴って表現したのが、ハヌマーンの山田亮一(Vo/Gt)である。
山田は歌詞を非常に重視しており、作家を志望していた時期もあったらしい。個人としてはとても納得だ。
では、具体的に楽曲を見ていこう。
–
呆けた顔して若者が行く 夜の学生街は賑わう
彼奴の吐瀉物 軍手の片方 捨て看板の女がぼやく
『処世の悲しみを知ってるかい?』 猿の学生さん
呆けた顔して若者が行く 夜の学生街は賑わう 彼奴の吐瀉物
軍手の片方 鼓膜を裂くかまいたちの夜
冬の淀川を流れる死体 猿の学生さん
俺の知らない遊びを知ってそうで
嗚呼なんか急に虚しくなる
猿の学生が悪い事をしている
雰囲気の大蛇に呑まれて笑う
猿の学生さん
猿公、得てして得て勝手して よしゃあいいのに喧嘩が始まる
仲裁人含む計三人
男気を誇示してる感じが見え見えで見てるこっちが痛い
猿の学生さん
俺の解さない価値観を持ってそうで
嗚呼なんか急に死にたくなる
猿の歓迎会 サークルかなんかの
吉備団子ひとつでぐるぐる回る
猿の学生さん
呆けた顔して若者が行く 夜の学生街は賑わう
『処世の悲しみを知ってるかい?』 猿の学生さん
猿の学生が悪い事をしている
雰囲気の大蛇に呑まれて笑う
猿の学生さん
恋する学生が赤い月を見ている
vividな彼女を捕まえてさ
猿の学生さん
ハヌマーン/猿の学生
「大学生に対する漠然とした嫌悪感」をここまで表現した楽曲があっただろうか。
今でもやんちゃな大学生を見かけると「嗚呼なんか急に死にたくなる」わけだ。
サウンドも疾走感があっていい。ギターソロの前に自分で「ギター!」というのにも衝撃である。
–
日暮れ路面電車に飛び乗って
現実逃避を図りまして
流れる景色を見る様な
窓に映る自分を見る様な
およそ空っぽの頭の中
やけに響く敬語のアナウンス
ビルを超えて山を越えて
あの娘が住む町を越えて
気付けば夜に変わっている
静かに時は流れている
通りの向こう灯る店の
侘しい光に呑まれている
胸の辺りで2回転半
グラスに注いだ毒を回す
知らない町の知らない人
覚えたばかりのソレを飲めば
誰もが馬鹿に想えます
訳アリっぽい男女の番が
何やら耳打ちで話出して
「どうして?」の問いに「愛してる」って
答えになってないぜ兄さん
居心地が悪くなってきて
席を立とうと想った時
ぽつぽつと雨が降って来て
再び品書きに目をやれば
雨曝しの学生が
笑いながら駆け抜けてく
想わず目を逸らしてしまう
覚えたばかりの毒が回り
昨日さえも昔の様です
ハヌマーン/ワンナイト・アルカホリック
ひきこもりじゃなくて、外に逃げたくなる時もあるよな、と思う。「そとごもり」のような。
電車で知らない街に降りてみるけど、結局は何かを得る訳でもなく、酔いながら独り帰宅する。
都市で暮らすということのやるせなさが上手く表現されていると思う。
–
人間の街で人間が笑う 人間の主張を人間が喋る
彼は稚拙な皮肉を吐いて肺呼吸をした
言葉は平気線
嗚呼、俺はもうビタミンを摂って眠ってしまいたい
彼の気配に怯えながら肺呼吸をした
比喩で濁っていく水槽の中、
群れを成して泳いでいるセルフィッシュ
螺旋状の疑念は影の様に振り切れず続いている
昭和歌謡をパンク調で歌う十代のバンドを彼と観ていた
演奏が終わると無言のまま肺呼吸をした
俺は几帳面に整頓された理屈の中、
泳いでいるセルフィッシュ
轟音武装して彼と只、目を瞑って歩いている
彼の名前は ”俺の不安”さ
過去と虚栄と薄情だけで俺が作ったハリボテの宮殿
彼はそこで俺を見張っている
彼はいつも背後にいるよ 肺呼吸をする背後にいるよ
理由で濁っていく水槽の中、
愛を乞うて泳いでいるセルフィッシュ
螺旋状の疑念は影の様に振り切れず続いている
名前は知らないが、
水泡をいつまでも撒き散らすあの装置に似ている
俺の存在、死にたくなる程アレに酷似している…
ハヌマーン/比喩で濁る水槽
すごい好きだ。フィッシュとセルフィッシュ(selfish/利己的な)を掛けた表現にも痺れる。
「名前は知らないが、水泡をいつまでも撒き散らすあの装置に似ている
俺の存在、死にたくなる程アレに酷似している」
という一節がいつまでも忘れられない。
音楽的な話をするとポストロックな変拍子アプローチもたまらないものだ。
–
部屋で俺、思想犯
部屋で俺、革命犯
演奏ハヌマーンで アナーキー・イン・ザ・1K
偶然街で数年ぶりの友達に会ったんです
「久しぶりだなー変わりはないか?」って言う
嘘っぽい俺の口調はなんだ
2分で途切れた続かない会話
変わっちまったのは俺か或いはお前か
部屋で俺、思想犯
アナーキー・イン・ザ・1K
部屋で俺、革命犯
アナーキー・イン・ザ・1K
街はずれのバイト先では平然と弱者へのイジメがあり
話題と言えば金の話か阪神タイガースの不甲斐無さか
一人残らず呪い殺してやるぜ
だけど今は黙ってヘラヘラ笑えよ
部屋で俺、思想犯
アナーキー・イン・ザ・1K
部屋で俺、革命犯
アナーキー・イン・ザ・1K
あの子の声も夢の続きも母さんが笑ったあの感じも
街のガヤガヤに歌う声も夜を所有したようなあの感じも
全てを消して時間が行く 問答無用で日々は巡る
俺は別段気にも留めずにデタラメなフォルムで夜を急ぐ
触れたらお前、怪我じゃ済まないぜ
部屋で俺、革命犯
アナーキー・イン・ザ・1K
部屋で俺、思想犯
アナーキー・イン・ザ・1K
ハヌマーン/アナーキー・イン・ザ・1K
MVが「アパートの一室で煙草を吸いながらマンガを読んでるだけ」というのがいい。
都市での「生活」が楽曲に落とし込まれているのだ。
知り合いに久しぶりに会ったときの気まずい感じ。
何も考えてないような職場の人間への嫌悪感。
社会全般に対して「呪い殺してやるぜ」「触れたら怪我じゃ済まないぜ」なんて1Kの自室でひとり呟くけれど、客観的に見れば、自分もただの社会に生きる人間のひとりである…。
なんて滑稽さも含めて、色々と思い巡らされる。
–
本当は全曲紹介したいぐらいであるのだが、キリがないのでこの辺にしておこう。
アルバムとしては
1st『World’s System Kitchen』
2nd『RE DISTORTION』
をまず抑えるといいだろう。
特に『World’s System Kitchen』は超名盤だ。ウォークマンが擦り切れるほど聴いた。
–
もうすぐ夏が来る。
夏というと青春のようなイメージを思い浮かべる人が多いのかもしれないが、自分にとっては「無気力」であり、「焦燥」の季節なのだ。
気は確かさ 俺には只、笑っちまう程、何もないだけ
ハヌマーン/Don’t Summer
(ニートが引用すると説得力が違う)