■ フォールガイズ:アルティメットノックアウト
『Fall Guys: Ultimate Knockout』というゲームを知っているだろうか。
いわゆるバトロワ系対戦ゲームであり、着ぐるみのようなゆるキャラを操作して、60人の中から1人の優勝を目指す、というものだ。
ゲームの内容は、レース系やサバイバル系などで、これを数回に渡って行い、優勝者を決定する。
内容は「風雲たけし城」「マリオパーティのミニゲーム」「カイジの鉄骨渡り」のようなものを想像してもらえれば分かりやすいかもしれない。
さて、このフォールガイズは2020年に2000円ほどで発売されていたのだが、今年の6月にswitchやPS5での基本プレイが無料となった。
こうして、僕も暇つぶしにポチポチ遊ぶようになったのだが、このフォールガイズ、かなりのくせ者である。
なんといっても、こんなに「ゆるゲー」「ファンシー」「子供向け」なビジュアルをしているのに、ものすごく憎しみが溜まるということだ。
相手を掴み、妨害し、叩き落し、エモートで煽り倒す、悪魔的ゲーム……!
まさに修羅道・ヴァルハラの世界である。
■ ブラストボールトライアル
フォールガイズには「ブラストボール」というゲームがある。
これはサバイバル系のゲームで、簡単に言えば、相手に爆弾(ブラストボール)を投げて、リングの外に突き落とす、というものだ。
そして、たまに行われる特別なイベントが「ブラストボールトライアル」だ。
これは通常のプレイ(ランダムでゲームが選ばれる)とは違い、3回連続でブラストボールを行い、その最後の生き残りが優勝というルールである。
30人中10人が落ちたら次の試合へ、残りの20人中10人が落ちたら最終試合へ、といった具合だ。
■ ファンシー修羅道
今日の夕方はゴロゴロしながら、このブラストボールトライアルをやっていた。
当然、やるからには相手を容姿なく叩き落す。爆弾を投げつけ、相手を掴み、奈落の底へ。
「やらなきゃやられる」「やるかやられるか」、フォールガイズの世界はそういうものなのである。
そして、もちろん自分もよくやられる。
突き落とされたあとは、滲み出るような憎しみを抱きながら、再びゲームに参加するのだった。
まさに修羅道・ヴァルハラの世界である!(2回目)
■ カップヘッドさん
そんな不毛な戦いも数回繰り返していると、やがて疲れてくる。
あるとき、僕は1回戦で戦う(爆弾を投げる)のをやめて、1人エモートをして遊んでいた。
このときに、絡んできてくれたのが、カップヘッドのスキン(着せ替え)を着た方であった。
手を振るエモートをすると、相手もエモートを返してくる。
こんなほのぼのとした時間がしばらく続いた。
すると、1回戦は終了。僕らは生き残ったのである。
しかし、1回戦は遊んでいてもどうにかなるものの、2回戦からは事情が変わってくる。
初心者の入り混じる乱戦的な1回戦とは違い、それを潜り抜けた上手いプレイヤーが明確な殺意を持って落としにかかってくるからだ。
こうなると、エモートをしている暇はない。逃げたり投げたりと、なんとか2回戦を突破するのだった。
そして、最終試合。そこにはカップヘッドさんの姿もあった。
「あの人、遊んでたけど意外とやるんだな……」、と思ったものである。
最終試合は特に争いが熾烈だ。気を抜くとすぐに落ちる。思わぬところから爆弾が飛んでくる。
まさしく、「殺るか、殺れらるか」といっていい。
僕はフォールガイという名の阿修羅になっていた。
……そして、大半の人数が脱落した後、リングの上に残っていたのは2人だけだった。
そう、それは僕とカップヘッドさんである!
僕らはリングの中心の空洞を挟むように向かい合っていた。
お互いの動きがしばらく止まる。
向こうも僕のことを覚えているようだ。
僕は戯れに、一度手を振ってみた。
「フォウフォウフォウwww✋」
すると、向こうもエモートを返してくる。
「フォウフォウフォウwww✋」
微笑ましい。ただ、ここは「フォールガイズ」の世界、「やるかやられるか」だ。
カップヘッドさんでも、もはや「やる」しかない。
そう思って爆弾を拾おうとしたとき、彼は驚くべき行動をとった。
なんと、カップヘッドさんは自ら奈落にダイブして、死んでいったのである!
あれは決して操作ミスなどではなかった。
彼は自身の手でリタイアを選択したのである。
―――カットインが試合終了を告げた。
こうして僕は優勝した。
ただ、このむなしい気持ちは何なのだろう。
僕は試合に勝って、勝負に負けた。
そして、優勝ではなく友情を選択したカップヘッドさんの誇り高さ。
この争いの絶えぬ世界にも友情の花は咲いたのである。
僕はひたすら勝利を目指していたが、それは果たして正しいことだったのだろうか。
この「フォールガイズ」というゲームに対する取り組み方がよく分からなくなってきた。
おれはもう……。戦わん……。(完)