この前の土曜日にちょっとした事件があったので、記録しておこうと思う。これはノンフィクションである。
この日は大学時代の知り合いである、Tさんの家で酒を飲むことになっていた。
メンバーは当時から交流のあった6名ほどである。
そして、この中にEという女性がいた。
Eとは1〜2年会っていなかったのだが、なんと彼女は長期間ニートをしているらしい。
たまに、転職などで短期間ニートをする知り合いはいたが、リアルの繋がりで長期間ニートと喋るのは初めてだったので、どんなニート生活をしてるんだろうと少し気になりつつも、僕は会場に向かったのであった。
この飲み会、最初は楽しかった。
各自の近況を話したり、ボードゲームをしたり……。
Eとも、”ニートあるある”で盛り上がったものである。
しかし、中盤になってくると、だんだんとEの様子がおかしくなってくる。
そう、Eは酒を飲むとオーバーヒートしだすタイプの人間になっていたのだ!
具体的に言うと、Eは延々と自分の話だけをし続けるようになってしまった。
10分ぐらいノンストップで、どれだけ自分がこれまで働くのがつらかったか、ひたすらに語り始めたのだ。
(それはもうEの独壇場である。劇場であり、激情であった。)
話を聞いていると、どうやらEは本当につらかったらしい。
前の会社ではお局に意地悪され、その前の前の会社では店長にいびられ、それ以外にもパワハラやセクハラなど……。
そして彼女は言う。
「働いても社会はクソヤローだらけだ!」
「結局、真面目なやつばかりが損をする!」
なるほど。まあ、もちろん、言いたいことは分かる。アンチ労働として概ね同意だ。
しかし、それにしても彼女のキレっぷりは異常だった。
他のメンバーはドン引きしているし、Tさんの家には今にも苦情が来そうであった。
そして、なにより僕は、周りを見ずに自分の話だけを延々と続けるタイプの人間が苦手だったのである。(なぜなら、母がそうだったからだ)
僕はEの演説にうんざりしてきたので、抗議の意味も込めてスマホをイジり始めた。『裏バイト』というホラー漫画の更新日だったのである。(おもしろいのでオススメだ)
しかし、これがEの逆鱗に触れた!
「おい!ゆるふわ!私はオメーに向かって話してんだよ!」
!?
まさかの指名である。グダグダと会話があったが、要約するとこういうことだ。
「私は社会で働いて苦しんだ上で、仕方なくニートをしてるんだ」
「それに比べてお前はまともに就職しないで甘えているだけだ」
ニート同士であっても、このように争いが生まれてしまうものなのか。
悲劇のニートvsニート開幕である。
確かに、「お前は甘えているだけだ」と言われると痛いが、ここはひろゆきばりに論点をずらす。ニート5年目をなめるなっ。
「確かに、おれは甘えてるかもしれないけど、そうやって立場の弱い者をいじめるのはパワハラ上司と同じことをやってるんじゃないの」
「それよりも、この労働環境と社会の方が根本的におかしい」
「そもそも、家賃とかうざくね?土地って元々誰のものでもなくね?」
こうして飲み場は次第に共産主義者のアジトのようになっていった。
ニートに敵対されてしまったとき(または仲良くなりたいとき)は、社会とか政治とかそういうふんわりとしたものを”共通の敵”として置いてやると、なんとかなるようだ。
その後、Eの怒りはとりあえず収まったようで、若干の気まずさはあったが、楽しげな雰囲気は戻ってきた。
もしかしたら、今後Eがそのエネルギーを転換し、共産主義者として活動を始めてしまうかもしれないが、それは僕の関与することではない……。
まとめというか、感想的なものを書いておくと、確かにEが延々と自分語りを続けていたのはコミュニケーションの姿勢として全く好きではないが、彼女を責めても仕方ないよな、とは思う。
前までは酒を飲んでもあんなに豹変するようなタイプではなかったような気がするし、やはり彼女を変えてしまったのは、社会の在り方や、労働のストレスなのだろう。
それに、彼女からは原始的な「労働へのヘイト」を感じた。
インターネット上で、長年理屈をこねているタイプのニートには持ち得ない、生々しい感情である。
そういった生のバイブスを感じられるという意味でも、ニート同士のリアルな交流には、何か意義があるように感じたものだ。
ニートよ、生身でぶつかり合うのだ!