部外者が口を出すのもアレだと思ったので、ツイッターでは沈黙していたが、やはりニートとして少し思うところもあったのでこの日記に記録としてまとめておく。
それは「山奥ニートの出産炎上」である。
なお、炎上に加担する気はないので、この記事を拡散することは控えて欲しい。僕のツイッターに投稿告知もしない。
まず、僕は反出生主義者でもなければ、子を産むことを否定している訳ではない。
生まれなければ苦痛は存在しないというロジックも分からなくはないけれど、それ(人類の自主的な絶滅)を達成する具体的な方法など無いのだから、より良い社会を作っていくしかないだろう。
「なんでニートが子供を産んだんだ!」など考えているつもりもなく、今回生まれた赤ん坊、両親ともにこれから幸福であることを願っている。
それも踏まえて、ある程度批判させていただく。
まず、ツイッターで炎上したのはこんな投稿であった。
来週のザ・ノンフィクションが地獄のような内容で今からドギマギしている。絶対母親目線で見ちゃうから来週はテレビに向かってツッコミすぎて昼間から疲れ果てそう
赤ちゃん……
Twitterより
この投稿には番組予告ページのスクリーンショットが続く。
実際の『ザ・ノンフィクション』の紹介文も読んでみよう。
山奥ニートの結婚 ~一緒に赤ちゃん育てませんか~
働きたくない…何かとわずらわしい社会から離れて限界集落で共同生活をする若者たち…初めての結婚式と出産…新しい命という現実の前に揺れる山奥ニートたちの1年の記録
最寄駅から車で2時間、平均年齢が80歳に迫る「限界集落」に、約40年ぶりとなる赤ちゃんがやってきた…
和歌山県の山奥で「働きたくない若者たち」が共同生活を送っている。自らを「山奥ニート」と呼ぶ20~30代の約10人が一つ屋根の下で暮らすシェアハウス。
彼らは皆、社会や家族とのつながりから離れ、互いに干渉することもない「理想郷」を追い求め、この地にたどり着いたのだ。
3年前、愛知県からやってきた30代のももこさんは、2021年5月、突然の結婚発表でみんなを驚かせた。お相手は、同じシェアハウスの年下男性。しかも、ももこさんは妊娠しているという…「私はここで子育てがしたい」と話すももこさん。自由気ままな暮らしを続け、社会の現実とは距離を置くことを望んで生きる山奥ニートたちが新しい命という「現実」に向き合うことになったのだ。
「私はここで子育てがしたい。10人いれば誰かしら暇な人がいるから」と話すももこさんに住人たちは戸惑いの色を隠せない…
出産を控える夫婦が頼りにしていたのは、隣の山の限界集落に暮らす中岡さん(86歳)。ももこさんは彼女から子育てを教わろうとするが、シェアハウスで子育てをしようという夫婦に中岡さんは不安を募らせていく…
赤ちゃんという「現実」は、若者たちの理想郷に何をもたらすのか…山奥ニートたちの1年を追った。
https://www.fujitv.co.jp/thenonfx/index.html より
当時の様子を見ていた方も多いかもしれないが、この投稿は非常に炎上した。
・地獄だ
・無責任すぎる
・親としてありない
・子供がかわいそう
・養育費はどうするのか
・他のニートに迷惑だ
などのコメントが寄せられた。
確かに、そりゃ野次馬たちも飛びつくよな、という内容である。
言ってしまえば、「働かないニート」「サークル合宿でセックスしちゃうようなノリ」「無責任な親」を一度に叩けるのだから、これ以上おいしいネタはないだろう。
多くの人々は大義名分を掲げていたが、結局のところは「真面目にやってる自分を否定する存在」を「叩きたい」のである。ネットの炎上なんてそれだけだと思う。
更に悪質だったのは「ザ・ノンフィクション」側もそれを理解していることだ。視聴率の為に、わざと「叩きやすい番組紹介」にしているのである。やはり、テレビやマスコミは嫌いだ。
実際、共生舎代表の葉梨氏も、Twitterでこう言っている。
ザ・ノンフィクションの説明文、「住人たちは戸惑いの色を隠せない…」って書いてあるけど、そんなことなかったと思うなぁ。みんな産まれるのをずっと楽しみにしてたよ。
Twitterより
僕の意見を述べさせて貰うと、シェアハウス住民や地域の皆で赤ん坊を育てるという、昔ながらの育児を採用することは非常にアリだと思う。
日本における核家族化はメリットもあったが、両親のみにかかる負担も大きくなる。
その結果、育児の疲労による自意識の先鋭化が進み、「私は『正しい子育て』をしている。『正しい子育て』をしていない奴はクソ」というネットでストレスを発散するモンスターたちが生まれてしまったのではないだろうか。
別に色々な育て方があってもいいじゃないか。みんなが楽をできるようなシステムを作っていくべきじゃないか。
「『正しい子育て』でなければ子供を産んではならない」なんて言っていたら、どんどん子供が減っていってしまう。
決して、「テキトーにバンバン産もうぜ!」と言っている訳ではないが、お互いを監視し合って、ひたすら粗探しをするような、この社会の空気感は非常に息苦しいものだ。
ただ、僕はもちろん共生舎や両親、葉梨氏にも問題はあると思う。
まず、いわゆる「出来婚」を否定するつもりはないが、山奥ニートという特異な状況でそれをしてしまうのはどうなのだろうか。
シェアハウスでカップルができることも別にいいと思う。その後に子供を作ることもあるだろう。
しかし、ただでさえ「ワケアリなコミュニティ」なのだから、そこはある程度の筋を通さないとメチャクチャになってしまうはずだ。
山奥ニートはヒッピーとは違うと述べているが、その辺りの境界線が崩れてしまうのはどうなのだろう。
(ただ、これは部外者による意見なので、当時者たちにとっては別にそれでもいいのかもしれない)
また、結婚妊娠が事後報告であったこと。このまま山奥で子供を育てたいとルームメイトに伝えたこと。そして、「みんな楽しみにしていた」とあるが、ここも僕の中で引っかかった。
確かに、「これからここで結婚して、子供を作って、子育てをみんなに手伝ってもらってもいいですか」とは言いづらいだろう。その気持ちはもちろん分かる。
ただ、子供ができてしまった後に「ここで子育てしてもいいですよね?」と言って、それを否定できる人が何人いるだろうか。
そして、シェアハウスの長に「みんな楽しみにしてたよね?」と言われて、それを否定できる人が何人いるだろうか。
ニートというと傲慢でわがままなようなイメージがあるが、交流してみると、意外にも繊細で心優しい人が多い。
そういった人々が「いや、嫌だけど……」とはなかなか言い出せないだろう。それにこれは赤ん坊のこれからもかかっていることだ。
僕がその現場に居たら、前述の通り「みんなで子育てするのもいいじゃん!」と思うタイプだが、やはりなんだか多少のモヤモヤは残ると思う。
これらもルームメイトに対して筋を通すべきところだったのではないだろうか。
葉梨氏の著書『山奥ニートやってます』では「山奥ニートは、古参の独裁政治になっている」「シェアハウスは独裁制がいい」と書かれている。
もちろん、これには理由があり、要約すると「各シェアハウスの方針を確固たるものにして、住民には気の合う所に行ってもらうのがいい。少人数の民主主義は最悪だからだ」というものである。
この意見には同意できるが、今回の件についても「赤ん坊が嫌な人は出ていけばいい」「そして、子育てが好きな人が来ればいい」といったスタンスなのだろうか。
「独裁」とはどこまで許されるものなのだろう。
システム上、仕方ないのかもしれないが、社会の同調圧力を嫌って集まってきたマイノリティのグループでも、結局は同調圧力が横行すると思うと、複雑に感じてしまうものだ。
そして、この炎上の根源を辿れば、この問題は「山奥ニートが子供を産んだこと」ではないと思う。
言うならば、「隠者が知名度を上げて、その収入で生活しようとしていたこと」ではないだろうか。
もちろん、山奥ニートの存在をある程度宣伝するのはいいと思う。
本を発売したり、1度目の『ザ・ノンフィクション』を放送するのは正しかっただろう。
僕も「こんな生活をしている人がいるんだ!」と思ったし、全国の迷える人々の助けにもなったことはずだ。
ただ、今回に関してはやりすぎである。
「山奥ニートの結婚・出産を特集します!」と言ったら、そんなの誰でも炎上するはずだと分かるだろう。
ここで、「いやいや、これは社会に一石を投じているんだ。自分なりの信念を持って放送してもらっているんだ」というスタンスならまだ分かる。
しかし、葉梨氏のツイッターを見ると炎上後に「山奥ニートはこんなに健全で正しい」というツイートを数回している。
地域住民に傘をさす共生舎のメンバーだったり、綺麗な星空の画像を投稿したりと、僕にはこれがなんだか「醜悪な社会で生きる人々 VS 健全で心優しい山奥ニート」という構図を作り上げているようで、なんだかいやらしいものに感じてしまった。
ここは自分で蒔いた種なのだから、堂々としていてほしかったと思う。
厳しい言い方をすれば、炎上するのが嫌なのなら、これ以上取材など受けなければよかったのだ。
「隠者が知名度をあげて生活しようとすると、俗世に絡み取られるジレンマ」、これは僕にとっても他人事ではないような気がする。
さて、なんだか批判的な意見が多くなってしまったが、僕は山奥ニートのことをリスペクトしている。
現代におけるオルタナティブなニート生活コミュニティの最先端であり、各所にも後追いの山奥ニート系シェアハウスが次々と出来上がっているからだ。
ただ、「最先端」の代表である共生舎だからこそ、その責任は重要であり、筋を通したしっかりとした振る舞いが必要なのではないかと、僕なりに考えてしまった。
まあ、何も知らない部外者が、個人の考えを勝手に押し付けるな、と言われたらそれまでであるが……。