右派ニートと左派ニート

■ ニートも一枚岩ではない

ニート。フリーター。セミリタイアラー。FIRE達成者。山奥ニート。寝そべり族。小屋暮らし。

そういった「働きたくない人」をインターネットで眺めていると、色々なタイプがいることが分かる。

今回は「右」と「左」という観点から、「ニート」について考察してみたい。

 

■ 右派と左派

「右」と「左」とは、もちろん「右翼」と「左翼」のことである。

右翼 … 保守的または国粋的な思想、立場の一派。また、その者。

左翼 … 社会主義・共産主義・無政府主義などの革新的な思想。また、そのような立場の人・団体。左派。

デジタル大辞泉 より

ご存知の通り、右翼が保守派で、左翼は革新派だ。

「右翼と左翼とは何か?」という詳しい話になると、大変になってしまうので、ここでは以下のようなふんわりとしたイメージに留めておく。

【右翼】【左翼】
保守派革新派
軍国主義平和主義
体制的反体制的
民族・公市民・私
国粋主義・民族主義社会主義・共産主義・無政府主義
秩序自由・平等
上位層・既得権益下位層・持たざる者
リバタリアン(自由至上主義者)リベラル(自由主義者)

うむ。大体こんな感じだろう。

ここで、このような一般的政治思想も背景に含めつつ、

「働きたくない。それ故に(国や社会の)保守を主張する」という人を「右派ニート」

「働きたくない。それ故に(国や社会の)革新を主張する」という人を「左派ニート」

と呼ぼう。

 

■ 右派ニートとは

まず、右派ニートはどんな人々なのだろう。

個人的な印象を上げれば、「FIRE達成者」「セミリタイアラー」などに多い。

彼らは現実を見据えており、「この社会」で働かない方法を模索し、努力してきた。

それ故に、ある程度の資産を築き上げ、資本主義社会で「働かないで生きていく方法」を確立しようとしているわけである。

政治的な話をすれば、彼らはベーシックインカムなどを望まない(場合が多い)。

ベーシックインカムが導入されれば、現在の国民保険など、様々な社会保障制度が廃止されてしまう恐れがあるからだ。

また、移民(治安の悪化)や原発廃止(電気代上昇)も望まないだろう。

彼らは現在の「住みやすい日本」を維持していきたいのである。

 

■ 左派ニートとは

一方、左派ニートは「持たざる者」や「生きづらい人」に多い。

彼らは「サラリーマンでなければ社会人に非ず」や「日本の世間体主義や同調圧力」に苦しんでいる。

それ故に、革新や抵抗によって、「生きやすい社会」「働かなくてもいい社会」を目指しているわけだ。

政治の面で言えば、ベーシックインカムやAI共産主義の主張。

活動としては、寝そべり族(最低限しか働かない)やアナキズム系の運動が見られる。

また、ニート系の著名人も、基本的にリベラル的な価値観を持っているように思う。

(そもそも「人文系といえばリベラル」「文化人は左翼」というイメージがあるが)

 

■ 右派ニート批判

それでは、それぞれを批判していきたい。

 

右派ニートには「持つ者」故の傲慢さが見られる。

端的に言えば、「自分だけ良ければいい」という態度だ。

安全な日本で自分が死ぬまで生き延びられればいい、という利己的なスタンスである。

 

また、「投資」をしている者が多いと述べたが、投資をしながら、「反・資本主義」と言うことはできないだろう。

投資家としては、「自分以外はあせくせと働いてほしい」のが本音であるはずだ。

(そのような構造がありつつも、youtubeやブログでは「FIREでゆるく生きよう」と言って、周囲からお小遣いを稼いでいる様子を見ると、「ずいぶん世渡りが上手ではりますなぁー」と言いたくなる)

 

更に言えば、自分以外の労働者が世界中で苦しんでいようと、それは「しょうがないこと」なのである。

南の途上国では、いつまでも低賃金で働いていてほしいし、原発だって誰かが危険な作業をしてくれればいい。

そうして自身は安全地帯でぬくぬくとした生活を望むのだ。

 

そして、たまにいるのだが、純粋に「右翼・保守派」で「ニート」の人を見かける。

そういう人々には、「そんなに国が好きなら、ちゃんと働いて、家庭を持って、国を支えるのが正しい行動なのでは?」と申してみたくなるものだ。

 

■ 左派ニート批判

一方、左派には「持たざる者」故の醜悪さがある。

経済や格差の問題は現実としてあるものの、「全て国や社会が悪い」という態度の人々が多く見受けられるものだ。

いや、日本はまだ恵まれている方なのではないのか?

そして、日々、国を支えてくれているサービスやインフラの世話になっているのではないか?

ただ幼児のように文句を言うだけのフリーライダーになっていないか?

 

また、厄介なのは「左」特有の正義感や自己陶酔である。

「正しい市民が、悪い権力者を倒す」

そういった構造にはドラマチックなものがある。

そして、それ故に、冷静な判断力を失ったり、悪い意味で集団的熱狂を生み出す可能性があるだろう。

 

また、革新を叫んでも、果たしてその改革後の世界に平和はあるのか?

歴史を顧みても、「弱者救済」を掲げる集団は、一部の幹部だけが甘い汁を啜って終わり、というパターンが多く見受けられる。

中世の聖職者階級、社会主義国家の赤い貴族(共産貴族)……。

現代日本の例で言うと、生活保護ビジネスのNPOなどが良い例だろうか。

 

そして、トロント大学の哲学教授、ジョセフ・ヒースが述べているように「反体制はカネになる」。

ビートニクやヒッピー。パンクやハードコア。東洋思想や神秘主義。

そういったカウンターカルチャーの数々は、「差異」の欲望を煽って、資本主義を肥えらせているだけだと言うのである。

確かに、現代でも「ニートでも楽しく生きる」「資本主義から降りる」「ミニマリストになろう」「アナキスト入門」のような価値体系や書籍の数々は、別の形でカネを生み出しているだけなのかもしれない。

そして、信奉者には「なにか偉大なことをやっている感」を与えて、気分を良くさせるのだ……。

左翼系文化人のいかがわしさは、現社会体制を批判しつつ自分自身がその体制から甘い蜜(地位、高所得、名声)を吸っているところにある。

社会から自らが疎外されていると感じる若者たちは、そこに怒りと欺瞞を感じ、右翼的スタンスへと流れて行くのだろう。

森岡正博(早稲田大学教授・哲学者)

(※1990年代に「右翼/左翼」が「サブカルチャー」に変化していく様子を指して)

自分個人の生きにくさを世の中全体がゆがんでいるせいにして、世の中が変われば幸せでおもしろい日々が私にも来ると信じる。

自分自身の矮小さや脆弱さを、民族や階級だの革命だのといった偉大な使命へ自分を委ねている自覚で乗り越えた気になる。

「新世紀エヴァンゲリオン」のヒット以来、自分の危機と世界全体の危機とがシンクロしてゆく物語を「セカイ系」と呼びますが、「右翼」「左翼」に代表されるイデオロギーはもとより「セカイ系」だったのかもしれません。

『右翼と左翼』浅羽通明

 

■ そういうオマエはどうなんだ

さて、なんだか右派ニートにも左派ニートにも、めちゃくちゃ嫌われるようなことを書いてしまったような気がする。

そうなると、必然的に「そういうオマエはどうなんだ」という声が上がるように思うので、答えておくと、僕は中道左派ニートである。

基本的にはバランス派。しかし、どちらかといえば左派。そんなスタンスだ。

 

そもそも、「右翼と左翼」というのは、「どちらかが絶対的に悪」ということは無いと思うのだ。

両者がバランスを取り合い、社会は進歩していく。

右翼が絶対的な権力を握れば軍国・全体主義の国になり、左翼が絶対的な権力を握れば社会主義という名の独裁に支配される国になる。

だから、ものすごく当たり前のことだが、「いいところはちゃんと賛同する」「ダメなところはちゃんと批判する」というバランスが大切なのではないか。

しかし、この当たり前が出来ていない人が多いと、僕は思うのである。

 

ただ、僕は「持たざる者」であるので、どちらかといえば「持たざる者」を支持する立場に近くなるのは、当然のことであるだろう。

 

■ シンギュラリティでみんな無用者になる?

また、僕が左派を支持しているのは、「シンギュラリティ」の可能性を考えているからだ。

chatGPTが目まぐるしい進化を遂げているように、これからAIやロボット、科学の技術が指数関数的に、爆発的に伸びるかもしれない。

そうなったとき、多くの人々は「無用者」「不要者」になる。

「私には安泰な地位がある! 貧しいヤツは自己責任だ! 勝手に死ね!」

そう考えている人も、いつ「いらない人間」になるかは分からない。

なんだかSF作品のような想定だが、もしかしたら一部の偉い人がAIとロボットを管理し、それ以外は不要な人間になる可能性だってあるではないか。

そういった事態の為にも、「人間はただ生きているだけで価値がある」というような、人権的意識を強めておかなければならないと考えるわけだ。

 

■ 「異議申し立て」と「逸脱」

ちなみに、先ほど紹介したジョセフ・ヒースの『反逆の神話 – 反体制はカネになる』によると、「正当な異議申し立て」と「社会規範を破る逸脱(ただ逆らいたいだけ)」を見分ける簡単な方法があるという。

それは、「みんながそれをしたらどうなるか? 世界はもっと住みよい場所になるのか?」というものである。

僕の主張は……「みんな最低限だけ働けばいい」。

うーん、別にそんな悪くないんじゃないか?

AIとロボットによる機械化、そして労働時間の削減。

これでみんなハッピーである。

ただ、どうにも希望的観測すぎる気はするが……。

 

■ その他の補足

とはいえ、上記で述べた「右派ニート」と「左派ニート」以外にも、色々なニートがいるだろう。

政治に関心のないノンポリニート。

とにかく世界がカオスになってほしい混沌主義ニート。

全てがどうでもいい虚無主義ニート。

ジョーカー予備軍の破滅主義ニート。

そういった政治的に分類できない層も、ニートには少なくないように思う。

 

さて、あなたは何タイプのニートだろうか?

 

 

タイトルとURLをコピーしました