『新人伝(にいとでん)』①

『新人伝(にいとでん)』は、2022年に日本国で書かれた寓話集である。

かの第三次世界大戦において、多数の文献や電子データが消失したが、2300年代のオールドコンテンツ愛好家によって、核シェルターにアナログ形式で保存されていたのが発見された。

この本の著者は新人(にいと)となっているが、このニートというのは、当時の働かなかった人の通称であり、本当の著者名は不明となっている。

当時の日本は資本主義の真っ只中であり、雇われ労働者として働くことや世間の常識に従うことを批判する内容が多い。

 

(ニートの仕事)

ニートが芝生で寝ていると、それ見た男がこう言った。

「あなたのような、働かない者がいるから社会はだめになるのだ」

ニートはこう言う。

「いや、私は今も充分に働いている」

「どういうことだ」

「あなたは私を罵ることでストレスを解消した。

それを受け入れるのもニートの仕事の1つなのだ」

ニートの言葉に感動した男は、そのまま一緒に寝そべることにした。

 

(砂場遊びのルール)

ニートが公園で寝ていると、ある男にこう言われた。

「そんな恰好でだらしない。社会のマナーを学びなさい」

しかし、ニートはこう言う。

「私はそのような本質的でないルールに興味ない。

『了解しました』も『承知しました』も、私にとっては等しくどうでもいいことだ。

言うならば、そんなものはあそこで行われている砂場遊びのようなものである。

一番偉い子供がルールを決めているだけで、一晩経てば全て無くなってしまうようなものだ」

ニートの言葉に感動した男は、そのまま一緒に寝そべることにした。

 

(不自由な自由)

ある町の大通りで、豪華な格好をした商人がこう言った。

「私はこんなにお金持ちで自由である」

しかし、その様子を見ていたみすぼらしい旅人が言う。

「いや、彼はお金に縛られていて自由ではない。

私のように、何も持たない者こそが自由なのだ」

それらの様子を見ていたニートはつぶやく。

「どちらもちっとも自由ではない」

それを聞いた男が尋ねる。

「それは何故か」

ニートはこう答える。

「私は自由であると大声で言う者が決して自由であるわけがない。

彼は自由な人間だと評価されたい気持ちに囚われているのだ」

「それでは、あなたが本当の自由人なのか」

「いや、私は何も自由ではない。不自由のそのものである。

世の中、何も思い通りになることなど無い。

だが、不自由を受け入れて、それを楽しむかどうかは自由だ」

ニートの言葉に感動した男は、そのまま一緒に寝そべることにした。

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